# Part1 ■S00: プロローグ 電車車内。 窓を見ている芽依。 芽依(モノ)「断言できる。世界広しといえども、私ほどデジタル機器に嫌われている人は他にいない。パソコンを触ればバグに遇い、スマートフォンを触ればフリーズする。ウイルス感染なんてしょっちゅうだ」 芽依(モノ)「でも、きっといつか仲良くできるはずだと信じている」 芽依(モノ)「だからお願い、今日こそは」 芽依(モノ)「……なんでこーなるの!?」 ■ OP ■S01: 事件の切っ掛け @ビル外観 ※背景は第2話S02から流用&改変 テロップ『京姫鉄道株式会社 姫路本社 (大将軍駅)』 2017年4月5日(水) 曇り 午前 8:45。 カット頭では日が差しているが、徐々に日差しが陰る。 @廊下 広報課のルームプレート。 @広報部広報課 室内 芽依クローズアップ。 テロップ『広報部広報課 係員 英賀保芽依』 少し不安そうな表情。 葛城(OFF)「ええな!?」 芽依、びくっとする。 広報課全景。 ビデオを通じて葛城が全社員に語りかけている。 テロップ『京姫鉄道株式会社 取締役 総務部長 葛城岩男』 葛城「目指すべきは『完璧』や」 葛城「諸君一人一人が鉄道を支えているという自覚を持って欲しい。安心と安全こそが、お客様の信頼を得る鍵や」 ここで、同様にビデオを視聴している他の部署の様子をカットインする。 第1話、第2話からできるだけ素材を流用できればなお良し。 各部屋には『セキュリティ事案ゼロは当たり前!』という張り紙がある。 葛城「何度もゆーとるように、コンピューターウィルス感染ゼロ。情報セキュリティ事案ゼロ。これがトーゼンや」 葛城「そのトーゼンができとらん! 感染した者は、ハッカーと同罪や! もちろん、懲戒処分は避けられへん」 粟生「(小声)いるらしいよ、国際部で降格処分になった人が」 芽依「(小声)えええ……」 粟生「(小声)芽依は特に気を付けなよ……」 芽依(モノ)「残念ながら、その心配は当を得ている」 葛城(OFF)「諸君も、地域社会における我が社の役割をよーう考えて」 芽依(モノ)「次は自分だ。そう思った――」 葛城(OFF)「鉄道員としての自覚を持って職務に励むように」 芽依(モノ)「自覚――そうだ、自覚を持たないと」 間。 葛城「ええな!」 芽依、頷く。 芽依(モノ)「もうウィルスに感染しないぞ!」 ■ S02 9:10頃 Webブラウザの表示がちらついている。(表示されているページは朝霧先生のセキュリティ関係のページ) 芽依「ううううう……パソコンが変なんです」 パソコンの画面を見て、動揺を隠せない芽依。 隣に立つ広報課長は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 テロップ 『京姫鉄道株式会社 広報部広報課長 余部静夫』 余部「言った端から……」 芽依「システム課に連絡しないと……」 余部「……クビになるぞ、君も私も……あのう、敬川さん。すみません、今回の件……内々にしていただけませんか……?」 ここでカメラに敬川が入る。(背景カット数節約のため、PANかスライドイン) 敬川は全身黒タイツ(実際には紫タイツ)。これは犯人であることを示す記号的表現。 ここでは本当に全身黒タイツという設定なのだが、その場の誰もツッコまない。あくまでもギャグ表現の一環。 テロップ 『京鉄ITソリューションズ株式会社 運用部基盤整備管理課端末保守係 係員 敬川康』 敬川「いいですよ。次から気をつけてくださいね」 敬川、スクロールロックキーをカチャリと押す。点灯していたキーボードのスクロールロックのLEDが消灯する。 (後への伏線) 敬川「駆除しておきました」 ニンマリとする敬川。 余部「ありがとうございました」 芽依「ありがとうございました」 ほっと胸を撫で下ろす、余部と芽依。 芽依「ふう……」 余部「ふう……クビの皮が繋がった……。葛城取締役本気だからね。もうちょっとは自覚を持って、他人に迷惑をかけないようにしなさい」 芽依「はい……」 余部課長は芽依の机から去って行く。 (SE)足音 芽依「ううう……こんな日に限ってついてない」 芽依の机の上には神戸テレビからのメールの印刷が置かれている。 『 京姫鉄道株式会社 広報部ご担当者様 いつもお世話になっております、神戸テレビの御来屋でございます。 いつも取材にご理解、ご協力いただき感謝しております。 実は、現在弊社で交通インフラにおけるセキュリティについて報道特集を 組む予定となっており、もしよろしければ貴社の取り組みについて取材を お受けいただけないかと思いご連絡を差し上げました。  タイトル 「交通を支えるセキュリティ」(予定)       神戸テレビ 報道番組「NEWS ISLAND」内特集  放映日 平成29年5月中旬(予定)  質問予定項目   ・悪意のあるサイバー攻撃により乗客に危険が及ぶ可能性はありますか?   ・そのような事態を防ぐためにどのような対策を行っておられますか?   ・近年重要インフラを狙ったサイバー攻撃が増えていますが、どのような感想   をお持ちですか? お忙しいところ大変恐縮ですが、ご検討いただければ幸いです。 何卒よろしくお願いいたします。 神戸テレビ 姫路支局 御来屋 ○○ 』 また付箋で『4/5 本日取材!』とメモ書きがある。 (SE)外線電話の呼び出し音 プルル・プルル・プルル   粟生「ごめん、英賀保さん取ってー!」 芽依、ハッとする。 (SE)受話器を取る音(OFF) ※ここでは少しでも作画負荷を減らすため手の動きはPC画面で隠すといいかも。 芽依「(外向きの口調で)お電話ありがとうございます。京姫鉄道広報課 英賀保と申します」 朝霧(電話)「朝霧義満と申します」 @朝霧の研究室 テロップ 『Kセキュリティ株式会社 セキュリティ研究員 朝霧義満』 室内には『自宅』と書いた張り紙がある。 朝霧「実はね、数分前から、うちのWEBサイトにね、おたくのIPアドレスからDoS攻撃らしき不審な通信が」 @広報課 芽依(モノ)「え……?IP?どすこい?」 芽依、頭がオーバーヒート。首をフラフラ傾げる。 (SE)ピコン 何かを思いついた芽依、次の瞬間受話器を勢いよく置く。 (SE)受話器を勢いよく置く音。 芽依「イタズラでした!」 ギャグ表現として受話器が暴れる。フキダシで朝霧のデフォルメを出しても良い。 朝霧(電話)「あーちょっとー!?」 一方芽依は、気楽な笑みを浮かべる。 芽依(モノ)「世の中暇人が多いですね。ま、少しは気分が変わったかも」 遠くの席から芽依の粟生が声を掛ける。 粟生「神戸テレビさん来られました」 芽依「はーい、行きまーす」 ■S02a アカネ「……何かまた垂水先輩がいない気がするんですが……」 少佐「安心しろ、あれは趣味だ」 CIO「確か、列車の運転だったか、臨時で」 宏佳「ほぼ趣味ね」 結菜「戸ジメ、ヨシ。側灯、ヨシ。ホーム、ヨシ。出発相当、進行」 # Part2 ■S03 @システム課 9:35頃。 テロップ『京姫鉄道株式会社 広報部システム課』 システム課には少佐とアカネの二人。 少佐はキーボードにスゴイ勢いで何かを入力している。 一方、アカネは机に突っ伏している。 テロップ『同・上席係員 祝園アカネ』 アカネ「あぁ……定時まだぁ……」 テロップ『同・少佐』 少佐「定時まであと7時間はあるが」 アカネ「えぇー……」 アカネ、少し顔を起こす。 アカネ「少佐は楽しそうですね」 少佐(OFF)「例のシステムの開発さ、キリッ」 アカネ「おお、仕事ですか。珍しい」 少佐「見ていたまえ、キーボード操作で効果音が鳴る機能を実装したところだ」 (SE)キー操作音(ピ、ピ、ピ、ピ、ピポッ) コンピューター「カツ丼ぶりを発注しました」 少佐「しかも、スクロールロックがONのときだけ効果音が鳴る親切設計! スクロールロックなんて誰も使わないからな!」 少佐「どうだ、論理的だろ! 私の作ったOSは!」 少佐、ドヤ顔。 間。 アカネ「……仕事してください」 少佐「えー?おまいうー?」 (SE)外線電話の呼び出し音 プルル・プルル・プルル   アカネ「はーい、システム祝園でーす(ダルそうな声で)」 篠山(電話)「國鉄公安の篠山と申します。いつもお世話になっております」 アカネ「えっ、外線!? あ、お、お世話になっております」 篠山(電話)「……あれ、アカネ?」 アカネ「え」 @姫路鉄道公安室外 説明カットとして、國鉄姫路鉄道公安室(現実ではJR姫路駅「鉄道警察隊 姫路分駐隊」)の入り口を映す。 テロップ『日本國有鉄道 姫路鉄道公安室』 篠山(OFF)「やっぱアカネだ!」 @姫路鉄道公安室 篠山、応接間のソファーで寝そべりながら、銃をくるくる回している。 テロップ 『日本國有鉄道 大阪鉄道管理局営業部公安課情報システム班 公安員 篠山砂沙美』 篠山「ごぶさたー! ささみんだよー」 篠山「今日は姫路に来てるんだー」 @システム課 アカネ、ジト目の表情を浮かべ、鼻で笑う。 アカネ「へっ」 アカネ(モノ)「こいつ、高校と大学が同じだった人です」 篠山(電話)「あ、そうそう、私、國鉄就職したんだ! よろしくねー!」 アカネ「……はあ、失礼ですが、ご用件は」 @姫路鉄道公安室 篠山「もーつれないなぁ」 篠山「でね、本題」 篠山、体を起こし、ソファーに座り直す。 篠山、カメラ目線で、カメラに銃を向ける。(注:テレビ電話ではない) 篠山「ここだけの話、今朝からアラートが止まらないんですよ。そちらのシステムから中途半端なデータが何度も大量に転送されてきてて」 @システム課 アカネは超気楽な口調から不意に飛び出して来たヤバイ話に驚きを隠せない。 アカネ「ええっ」 篠山(電話)「じゃー、なるはやでおねがいねー!」 (SE)電話が切れる音(ガチャ) (SE)電話不通音(ツー・ツー・ツー) アカネ「あ…はは」 少佐(OFF)「何があった?」 アカネ「ささみんでした」 少佐「ささみん? ササミカツ?」 アカネ(モノ)「さよなら、定時退社★」 アカネ「あぁ……」 ■S04 @システム課 9:45頃。 第1話のセルフパロディ。できるだけ作画を流用する。ただし、部屋には宏佳、アカネ、CIOのみがいる。(結菜はいない) (BGM)作戦会議 テロップ『広報部システム課長 山家宏佳』 宏佳「報告して!」 少佐「ウィルス感染報告!」 溜め。 少佐「……殺到していません」 (BGM)なし 間。 (SE)閑古鳥 (SE)少佐のキー効果音をまばらに。以降目立ちすぎないよう少佐のキータイプに合わせて。 宏佳「むしろないわね」 テロップ『京姫鉄道株式会社 常務取締役 兼 CIO 中舟生良文』 CIO「葛城君が脅して回ってるからなぁ……ウィルス感染したら懲戒処分だって」 宏佳「(呆れ口調で)……何とかしてくださいよCIO」 CIO「無理だよぉ、あいつ労組幹部出身だから手強いんだ……」 宏佳「……そうですか(ため息)」 CIO「俺悪くないよぉ……」 (BGM)作戦会議 宏佳「仕方ない。掴んでいる情報を整理しましょう」 少佐「はい。國鉄への駅・運賃情報転送処理が」 少佐「異常終了を繰り返しています。ログによると午前8時頃から、数秒に1回の頻度です」 アカネ「9時35分に國鉄からの要請を受け、5分後に専用回線を遮断しました」 宏佳(OFF)「関係部署にヒアリングは?」 アカネ「はい」 モブ「何もないよ、ホント、ホントぉ、普通普通、アハハハハ」 アカネ「とのこと」 少佐「隠蔽の香りッ……」 宏佳「ほかのシステムはどう?」 少佐「全体的に重めです。サーバーによってばらつきがありますが」 アカネ「あ、デッドロックが起きてます」 宏佳「どこ?」 アカネ「人事システムの月次処理です。アクセス急増で潜在バグが出たみたいですね。今朝から連携サーバーへのデータ配信が滞っています」 宏佳「人事……だから、今朝……」 @回想 (SE)改札機エラー アカネ「げぼ……」 @回想終わり アカネ「あれは悲しい出来事でした……」 宏佳「ネットワークトラフィックは?」 少佐「集計中ですが、平常よりもかなり多いです」 宏佳「例えば、パケットがループしているとか?」 少佐「違うと思います。ARPは平常通りです」 宏佳「じゃあ、何が増えているの?」 少佐「HTTPです」 宏佳「HTTP!?」 少佐「主に社内PCから社内サーバー宛のトラフィックが、平常時の数十倍以上あります」 アカネ「一部はプロキシ経由で社外にも流れています」 宏佳「マルウェアの痕跡は!?」 少佐「今の所、不審なプロセスもファイルも見つかりません」 宏佳「不気味ね」 宏佳(モノ)「何も確証はない。でも、念には念を」 宏佳「少佐君、業務系LANからインターネットへの通信を遮断するわよ」 少佐「はい」 宏佳「祝園ちゃん。リスク管理、広報課に連絡。グループウェアで一斉通知」 アカネ「はい」 宏佳「よろしいですね? CIO」 CIO「予約サイトに影響は?」 宏佳「今のところはありません。ただ、状況次第では」 ■S05 @指令所 09:50 テロップ『京姫鉄道株式会社 姫路輸送指令所』 敬川、何かをしている。 パキラがその近くにいる。 芽依、テレビ局の取材を受けている。記者の名前は御来屋。 御来屋「サイバー攻撃対策として、どのような備えをされていますか?」 芽依「はい。まず、攻撃を受けることがないよう、列車の運行を管理するシステムは、ネットワークを隔離しております」 御来屋「しかし、スタックスネットの事例のように、隔離されたネットワークでも攻撃を受ける可能性が指摘されています。もし、そのような攻撃を受けたとしたら」 芽依芽依「はい。お客様の命を最優先に、何か起きた時には直ちに列車を止めることを原則としております。弊社の場合、システムに異常を感知すると、直ちにすべての信号機が赤に変わり、非常停止を指示する無線信号が発信される仕組みになっております」 御来屋「無線信号。ちなみに、どのような」 芽依「ピピピ」 御来屋「ピピピ?」 芽依「ピピピ」 (SE)防護無線(ピピピピピピピピ) テロップ『京姫鉄道株式会社 姫路輸送指令所 指令員 膳所○○』 膳所「非常発報!」 敦賀「この指令所からです」 テロップ『京姫鉄道株式会社 姫路輸送指令所 指令長 万能倉まな』 万能倉「まじかよ」 @キハ20車内 テロップ『気・第2103Dワンマン列車 キハ20-522』 閉塞信号機、進行現示(青)。 テロップ『東福住信号場』 結菜、東福住信号場の場内信号機(兼出発信号機)を指差喚呼する。 結菜「場内、進行!」 テロップ『京姫鉄道株式会社 広報部システム課係員 兼 姫路総合運輸区 運転士 垂水結菜』 (SE)防護無線(ピピピピ…) 同時に、信号機が停止(赤)に切り替わる。 結菜「って」 結菜「ええええええ!?」 列車は止まりきれず信号を冒進する。 ATS直下地上子を踏み超え ATSベル・チャイム同時鳴動。 (SE)ATSベル ジリリリ (SE)ATSチャイム キンコンキンコン… @指令所 万能倉「システム異常検知か!?」 膳所「はい」 テロップ『指令員 敦賀○○』 敦賀「信号冒進多数! 防護無線も発報されてます! 本線431M、441M、2103D……」 膳所「出発信号機が停止現示に急変したとの報告が来ています。手柄山駅、姫路駅、京鉄園部駅……」 三神姫線指令長「三神姫(さんしんき)線もです!」 万能倉「運転整理のアレ起動すんなよ!?」 膳所「あんな重いの使いませんよ!」 芽依「えええええ? 私、何もしてないよ!?」 ■S06 --C01 10:50頃。 @キハ20車内 運転席で無線機のレシーバーを耳に当て顔をしかめている結菜の横に、茉莉(高校生)が現れ、結菜に話しかける。 茉莉はこの日、部活の用事で学校に来ていた。 テロップ『私立○○高等学校2年 網干茉莉』 茉莉「(若干苛立ちを隠せない様子で)あの」 --C02 茉莉「1時間も止まってますけど、どうなってるんですか!?」 --C03 結菜「すみません……新しい情報がなくて……」 --C04 結菜「こちら2103D運転士。輸送指令どうぞ?」 無線「……」 結菜「輸送指令、こちら2103D運転士。どうぞ?」 無線「……」 結菜「輸送指令のバーカ」 膳所(無線)「こちら輸送指令、今バカって言った運転士どうぞ!?」 結菜(モノ)「ふふん、チョロい」 結菜「こちら2103D運転士。運転再開はまだですか」 --C05 膳所「こちら輸送指令、2103D運転士、輸送管理システムのトラブルで」 結菜(無線)「それは1時間前にも聞きましたよ。トラブルって何なんですか」 --C06 結菜「何が起きて、今どうなってるんですか!?」 --C07 月田「どうなってるんだね!」 --C08 駅員「どうなってるんだぁあああ」 --C09 @指令所 膳所「問合せがパンク状態です」 万能倉「知るかよ。こっちが一番知りたいんだよ!」 --C10 指令所前方の大スクリーンの表示は真っ黒で、ただ『タイムアウトが発生しました』とのみ表示されている。 万能倉(OFF)「どうなってんだよ、なー、まじで。」 --C11 万能倉「信号通信区は何してんだよ。ああん?」 --C12 テロップ『京姫鉄道株式会社 鉄道事業本部信号通信区 係員 八橋次郎』 八橋「……KITSさんと各ベンダーさんに調査を依頼してまして……」 万能倉「おい、KITSの有耶無耶ァ」 敬川「敬川です」 万能倉「てめえ、輸送管理システム更改プロジェクトにも居ただろ。何か知ってるだろ」 敬川「……今は端末保守しかやってませんし、それに、何も明確なことは……」 --C13 万能倉「まさかウィルスじゃねーだろーな」 敬川「それも見つからないというのが現状でして……」 万能倉「チッ!ざけんな」 --C14 デフォルメ、どんより効果背景。 モブたちの心のつぶやき。ここは苦悩というよりは、もはや祈るような気持ち。 八橋(モノ)「もしウイルスなら懲戒処分か……やだなぁ」 八橋(モノ)「キャッシングリボがぁ……キャッシングリボの支払いがぁ……」 --C15 一方で芽依と取材班。 御来屋、芽依にマイクを向ける。 御来屋「これはどういった状況なんでしょうか……」 目を泳がせ、明らかに動揺している芽依。 芽依「えっと……あの……」 --C16 芽依(モノ)「きっとウィルスだ。私のせいなんだ……私のせいで……」 芽依(モノ)「きっとバレたら私だけじゃない、課長のクビも飛ぶかも……」 余部(回想)「他人に迷惑をかけないようにしなさい」 芽依(モノ)「うううう、どうしよう、どうしよう、どうしよう」 # Part3 ■S06a 芽依(モノ)「きっとウィルスだ。私のせいなんだ……私のせいで……」 芽依(モノ)「うううう、どうしよう、どうしよう、どうしよう」 芽依(モノ)「……」 芽依(モノ)「……」 芽依(モノ)「そうか!」 芽依(モノ)「アカネちゃんは『他人』じゃない! アカネちゃんに頼ればいいんだ!」 芽依、受話器に叫ぶ。 芽依「アカネちゃーん!」 アカネ「ほい来た」 芽依「アカネちゃあああああん」 芽依「私が悪いんだ……私が悪いんだよぉ……」 アカネ「(優しい声で)落ち着いて下さい。大丈夫、自首すれば罪は軽くなります」 芽依「私、何もしてないよ!」 アカネ(モノ)「こいつ、自己矛盾してやがりますね」 ■S07 @システム課 10:50頃。 アカネ「なんか輸送管理システムもトラブってるみたいです。全線運休です」 宏佳「ええ!? ……あっちは管轄外だから情報が……」 少佐「同一事象でしょうか」 宏佳「もしそうなら、可能性は絞り込まれる」 宏佳「輸送管理系と情報系・業務系はネットワークは分離しているでしょ」 宏佳「両方のネットワークに接続しているのは、認証サーバーと端末向けのアップデート配信サーバーぐらい……それが、マルウェアに感染?」 少佐「もう一つ可能性があります。内部犯が故意に攻撃しているという可能性です」 宏佳「……!」 宏佳「……そうね、あっては欲しくないけど」 時間の経過の表現として、水滴のカットをインサートする。 夢前「ログですか? 保存期間はバラバラです。一部は、もう消えてるかも」 宏佳「でも、まだ重要な痕跡が残っているかもしれない」 宏佳「一緒にログをかき集めて保全しましょう。中舟生CIO」 CIO「お、おう」 宏佳(OFF)「葛城取締役に気付かれないように、うまく社長に報告してください」 CIO「ええ、俺が……」 宏佳、キッと睨む。 CIO「わ、分かったよぉ」 アカネ(電話)「あのー私、そっちに戻ってもいいですか?」 アカネ「ここ、雰囲気最悪なんですけど」 宏佳「待って。祝園ちゃんはそこにいて、輸送指令と情報を共有して」 アカネ「えぇー……」 宏佳「いい? システムはコンピューターだけじゃない。人まで含めてシステムなの」 宏佳「ユーザーに適切に現状を伝えることも、エンジニアの大切な役割よ」 ■S08 11:00頃。 @指令所 アカネ「あ、ども」 万能倉「あ? なんだてめぇ」 アカネ「広報部システム課の祝園です」 万能倉「ああん? 広報?」 アカネ「ども、予算の都合で広報部に居候しているシステム課です」 万能倉「知ってら。何の用だ」 アカネ「口頭ですみませんが、みなさんに至急お伝えしたいことがあります」 ※ここの説明は以前のシーンで視聴者に説明済みのため、尺の都合でカットする。 アカネ「というのが現状です。ま、葛城取締役の言葉を借りれば全社員『懲戒処分』って感じの状況ですね」 万能倉「間違いないのか」 アカネ「あの、怖いので、トーンを抑えて貰っても?」 万能倉「……間違いないのか」 アカネ「まだ断定はできません。しかし、現に発生している事象を考えれば」 アカネ「ここは最も安全側で行動する必要があると考えます」 万能倉「クソ、なんてことだ……」 万能倉「サイバー攻撃が疑われる。輸送管理システムは信頼できる状況にない。そう思って差し支えないか?」 八橋「……はい」 万能倉「いつから分かっていた」 八橋「……午前9時頃からです」 万能倉「もっと早く言えよ! 連絡の徹底、事故の防止、規定の遵守(じゅんしゅ)! 名札の裏にあるだろ!」 八橋「……すみません」 万能倉「まてよ……」 万能倉「誰のせいで、安全が守られなかった……。なぜこうなった……」 回想。 万能倉(モノ)「全部私のせいじゃないか」 万能倉「おい、八橋」 八橋「は、はひ……!」 万能倉「私が怖いから、報告を止めていたんだな」 八橋「……え、いや、その……。それもあります……。でも、葛城取締役が……あ……」 万能倉「……すまない。私が悪かった。正直に答えてくれたことには感謝する」 万能倉「全員聞け! 午前11時5分、ただいまをもって、重大インシデントとして対応を開始する」 間。 万能倉「事故は必ず起きる。それが当然だ。責任事故ゼロ、インシデントゼロ。これは目標に過ぎん。隠蔽や言葉遊びで実現したゼロに意味はない。今、一番大切なのは、お客様を安全に送り届けることだ」 万能倉、悔しそうに口元を歪める。 万能倉「……こんな事態を引き起こしたのは私の責任だ。」 万能倉「えこひいきをして、壁を作ってしまった。これ自体がインシデントだと思っている」 万能倉「今更気付くのは、鉄道に関わる一人として情けないと思う。」 万能倉「それでも、安全は、全員の協力があってこそ実現できる。だから、力を貸してほしい。この通りだ」 間。 アカネ(ナレ)「その時、皆思い出しました」 アカネ(ナレ)「一般準則 『事故の防止 従業員は、協力一致して事故の防止に努め、もつて旅客及び公衆に傷害を与えないように最善を尽さなければならない。』」 万能倉「今日こそ、日頃の訓練の成果を見せるときだ」 万能倉「全員、異常時取り扱いマニュアルにしたがって行動。不測の事態、危険の予兆があれば直ちに私に連絡。」 万能倉「葛城のおっさんにどう言われようが、私の権限で正式に表彰する。いいな!」 万能倉「おい、敦賀、お前を事故記録係に任命する。記録開始」 敦賀「はい、記録開始、了解です。映像記録はどうしますか?」 万能倉「ちょうど、あそこにカメラがある。協力を要請しろ」 御来屋「!?」 亀田「!?」 万能倉「おい、山口! マニュアル通り、リスク管理委員会と、近畿運輸局の鉄道部安全指導課に電話で速報。運輸局はどうせいつもの兄さんが電話に出るだろ。質問が多いから予め答え用意しとけ」 山口「了解。ちなみに、鉄道運転事故ですか? 輸送障害ですか?」 万能倉「異例すぎて分からん。『三時間以上本線における運転を支障する』から、両方じゃねえか?」 山口「では、報告の根拠としては、鉄道事故等報告規則 第五条第一項第五号と、同第二項第一号とします」 万能倉「サイバー攻撃の疑いもある。『特に異例と認められるもの』も加えとけ」 万能倉「原因の分析は後回しだ。復旧に何時間かかる?」 敬川「分かりません。まず、ウィルスを特定しなければ復旧のしようがありませんから」 八橋「……最悪の場合、一からシステムをセットアップし直します。その場合……早くても復旧するのは明日の始発です。遅ければ一週間は」 万能倉「わかった」 膳所「明日の朝まで運休ですか!?」 万能倉「なわけあるか、バカ。……代用閉塞だ」 膳所「代用閉塞!? 全線で!?」 万能倉「そうだ。訓練はやっただろ。地震で指令所が倒壊した想定の」 膳所「……マジかぁ」 万能倉「マジだ」 指令長、信号通信区の担当者やアカネ達に対して、 万能倉「……5時間だ。5時間だけ稼いでやる。それが限界だ」 万能倉「通勤ラッシュまでに自動閉塞とCTCだけでも復活させろ」 ■S09 11:30頃。 @キハ20 網干「ぬぬぬぬ!(怒り爆発寸前)」 猫動画を見せて乗客を和ませている結菜 網干「にゃーん」 線路を走ってきた月田駅長を結菜が車内に迎える。 テロップ『京姫鉄道株式会社 福住駅 駅長 月田万作』 結菜「月田駅長、大丈夫ですか!?」 月田「ぜえぜえ、指導通信式で運転再開だ」 タブレットキャリアに『指導者 福住-東福住(信)』と書かれた赤い腕章が巻き付けられている。 ■特殊OP 以降、ほぼ止め絵をO.L.で切り替える。 鉄道無線などで雰囲気を出す。 @列車外観 どこかを走っている列車。 (SE) 無線呼び出し音 指令員(無線)「こちら輸送指令、全線区全列車に閉塞方式の変更についてお知らせします。輸送管理システムの復旧に長時間が見込まれるため——」(注:それっぽい言い回しに変更する) 指令員(無線)「あなたの車は次の社町を逆出発」 指令員(無線)「こちら旅客指令です、振替輸送について——」 @駅ホーム 吊し上げられている駅員が、首から案内を提げている。 @駅ホーム テロップ『京姫鉄道株式会社 大将軍駅』 駅員が停車中の列車に対して、ホームの端で緑の手旗で進行を現示する。 @社長室 顔面蒼白で後ろにひっくり返る社長(作画でひっくり返るアクションを動かしたい) 激怒する葛城 項垂れる余部課長 @電車 14:00頃 テロップ『同・電第9001M臨時列車』 スマホのSNSアプリに入力している乗客。 客(モノ)「信号機付いてないんだけど? 大丈夫?」 @指令室 芽依(モノ)「ご心配をおかけしております。現在、信号の点検を行っております」 スマホの画面には『その間、安全を確保して運転を行うため、先頭車両に赤い腕章を付けた係員が信号の代わりとして添乗しております』と入力中。 @指令室 膳所が髪の毛をうねうねさせながら、ホワイトボード上の磁石を動かしている。 が、何かの弾みで一個落ちる。 @広報課 余部「お電話ありがとうございます。京姫鉄道広報課の余部と申します」 @サーバールーム テロップ『京姫鉄道株式会社 姫路データセンター』 信号通信区の作業員が作業している。 作業員「コールドスタンバイ系 起動完了!」 @線路 閉塞信号機が一斉に青に変わる。 @時計 ■S10a 16:00頃。 @指令所 芽依視点。他の人が活発に動いているなか、一人だけ立ちすくんでいる芽依。 芽依(モノ)「結局私は迷惑かけてばかり……。私だって……」 フェードインで少佐達の会話が聞こえてくる。万能倉、八橋、敬川、少佐、アカネが主に話している。 八橋「自動閉塞は自律モードで復旧、サーバーはコールドスタンバイの予備機に切り替えました」 少佐「業務系・情報系との連携を完全に遮断。統合認証サーバーも、コールドスタンバイの予備機に切り替えました」 敬川「指令所の端末はすべて撤去し、最低限の予備端末のみ設置しました」 万能倉「……で、CTCの復旧はまだかよ」 アカネ「アテが外れました。タイムリミットまでの復旧は不可能です」 アカネ「総替えしても、結局、同じエラーが発生します」 万能倉「なぜだ」 アカネ「とにかく、端末を接続した途端にエラーが起きるようです。端末なしなら復旧できる可能性はありますが……」 万能倉「端末が使えなければ、CTCの意味がないだろ」 八橋「端末なしで全自動制御するにはPRCの復旧が必要です。ですが、いつになるか」 万能倉「分かった。だが、暗くなれば、転轍機の手動操作を継続するのは難しくなる。事故も起こるだろう」 万能倉「仮にPRCが復旧しても、臨時ダイヤを入力できなければ、今の状況に対応できない」 万能倉「一六時半に発車する全列車の終着をもって、全線運休としよう」 八橋「……はい」 八橋、うなだれる。 慌ただしく去って行く万能倉。 アカネ「でも確か3年前にシステムを刷新したんじゃ」 アカネ「いくら異常なアクセスとはいえ、こんな台数だけでダウンしないのでは」 少佐「君の知らない闇が少し残っているのさ」 SE: PC9821起動音(ピポッ) 万能倉の声が響く。 万能倉「デッドロック!?」 膳所「……すみません」 @京鉄法華口駅 運転席でぶち切れている結菜。(セリフなし、口パクのみ) 鳥瞰で、列車が八方塞がりになっている様子を見せる @指令所 膳所「閉塞信号機の復旧で、発車順序を間違えました……」 万能倉「誰のミスかは後だ。退行させてる時間はない――」 一方アカネ達。 八橋「……そうか。デッドロックか! デッドロックですよ!」 八橋「ベンダーの話によると、以前から稀に運転整理支援機能でデッドロックが起きてるようなんです。関係ないかと思っていましたが……」 万能倉「誰だ今デッドロックって言っのは? 他でも起きてるのか!?」 八橋「あ、システムの中の話です」 万能倉「どうやったらシステムの中でデッドロックが起きるんだよ」 アカネ「鉄道では事故を防ぐため1つの閉塞区間に1列車しか入れないという制御を行っていますよね」 万能倉「ああ」 アカネ「例えば、輸送指令が、列車の運転順序を間違えた指令を出すと、お互いの進路を邪魔して列車の身動きが取れなくなります。今みたいに」 万能倉「それがデッドロックだ」 アカネ「実は、コンピューターのデータ処理でも似たような制御をしていて、同じような現象が起きるのです」 アカネ「例えば、システム内に一つのデータがあります」 アカネ「このデータを二人が同時に編集すると壊れます」 アカネ「なので、同時に一人しか編集できないようにして、他の人は待たせるようにします」 アカネ「これって何かと似てませんか?」 万能倉「閉塞か?」 アカネ「そうです」 アカネ「では、次に、データが二つ並んでいるところを想像して下さい」 万能倉「ああ」 アカネ「Aさんは、1番のデータ、2番のデータの順で編集しようとしています」 アカネ「逆に、Bさんは2番のデータ、1番のデータの順で編集しようとしています。どうなりますか?」 万能倉「お互いに次のデータを編集できないってことか」 アカネ「そうです。お互いの進路を妨害しているので、身動きが取れなくなります」 万能倉「鉄道のデッドロックとほぼ同じじゃないか」 アカネ「はい。そういうことです」 万能倉「……つまり、今の状況は、鉄道に例えると、ある駅で起きたデッドロックの影響が他の線区にも波及しているようなものってことか」 八橋「はい。おそらくですが」 万能倉「だが、運転整理支援はクッソ重いから使用禁止にしている。誰も使ってないのになんで動くんだ」 八橋「それが分からないんです」 少佐「とはいえ、デッドロックが原因なら、端末2台だけでもDoS攻撃が成立するか……」 目をぐるぐるさせていた芽依、ハッとする。 芽依「どすこい?」 アカネ「でもDoS攻撃だとして……」 芽依「どすこい?」 ここで、朝霧の電話を回想。 朝霧(回想)「DoS攻撃らしき不審な通信が」 芽依「どすこい!?」 # Part4 ■S10b 芽依「ねえねえ、アカネちゃん、どすこい?」 アカネ「……。DoS攻撃です。まぁシステムを力技で倒してダウンさせるという意味では……どすこいってイメージかもしれませんが」 イメージ映像。 力士「どすこーい!」 システムの箱が倒れる。 (SE)KOの音(カンカンカーン) アカネ「……斬新な情報提供、ありがとうございます(若干馬鹿にした感じで)」 芽依「違うんだよ! 今日、朝、何ちゃら義満とかいう人からどすこいがIPで何ちゃらかんちゃらって電話があったんだよ」 アカネ「朝霧義満先生からですか!? セキュリティ専門家の」 芽依「……たぶん。イタズラだと思って切っちゃったけど」 アカネ「京姫鉄道株式会社の祝園と申します。朝霧義満様の」 朝霧「ガルルルルルル……」 アカネ(モノ)「めっちゃ、怒ってるぅ↑」 少佐「なんだと、社外の無関係のWEBサイトにまで……」 アカネ「はい。本当に無差別攻撃みたいですね」 少佐「実は、単純な仕掛けなのでは」 アカネ「F5キー連打でページを再読込しまくってるとか……」 八橋「F5キー? さっき言った運転整理支援機能の呼び出しです。それなら説明がつく!」 キーボードのF5キーを映して、O.L.で画面下部のファンクションキーリストを映す。 『F5:運転整理支援』 少佐「ビンゴじゃないか?」 アカネ「しかし、見た感じF5キー押している人なんて……」 (SE)ピピピピピピピピピ 万能倉「防護発報!?」 少佐「いえ、キータイプの効果音です……」 万能倉「なんだ」 少佐「自作OSのテストをしていたのだが」 アカネ「こんな時に何遊んで……」 少佐「F5だ! F5キーだ! 勝手にF5キーが連打されてる!?」 少佐「私の自作OSに感染させるとは……やり手だな」 アカネ「……OSに関係なく!? もしや」 アカネ、キーボードのUSBコネクタを抜く。 ピタリと音が止まる。 少佐「止まった」 コネクタを刺す。 スクロールロックが点灯。 音が鳴る。 少佐「鳴った」 アカネ、キーボードのUSBコネクタを抜く。 ピタリと音が止まる。 少佐「止まった」 間。 少佐「なるほど、ウィルスの類が見つからないはずだ」 万能倉「何か分かったのか」 アカネ「はい。キーボードに悪戯が仕掛けられてるようです。すべての端末からキーボードを抜いてください。それで復旧するかもです」 万能倉「まじかよ」 キーボードを次々と抜いていく。(手元だけの描写で良い) しばらくして、大スクリーンの路線図の表示が復活する。 一同「おおおおおおおお」 アカネ「最初からウィルスじゃなかったんですよ」 芽依「でも、ウィルスだって、朝、あの人が駆除してくれたよ?」 (SE)携帯電話ベル アカネ「はい、システム祝園」 @KITS 宏佳と夢前。 夢前「KITSの夢前です。端末13号機を確認してください」 テロップ 『京鉄ITソリューションズ株式会社 運用部基盤整備管理課端末保守係 係長 夢前さくら』 @指令所 夢前『不審なものは接続されていませんか』 アカネ、敬川がPCから何かを取り外したのを見つける。 敬川指令室を出ようとしたところ、アカネが前に立ち塞がる。 ニコッ ■S11 16:55頃。 @京鉄本社ビル屋上階、水道設備の入り口 テロップ『京姫鉄道株式会社 本社ビル屋上階 水道施設』 アカネ、敬川、夢前、御来屋、カメラマンがいる。 (SE)ガチャン アカネ、南京錠を閉める。 水道設備の立ち入り禁止の柵の中に、敬川が閉じ込められている。敬川、柵を掴んでアカネに怒声を浴びせる。 敬川「何すんだ!」 アカネ、キーボードを見せる。 アカネ「考えましたねぇ。F5キーを連続して押せば、列車運行管理システムに異常が起きる」 アカネ「ねぇ? 列車運行管理システム更改プロジェクトにも関わっていた、敬川さん?」 アカネ「しかも、キーボードの中には小型のコンピューターが仕込まれていました」 アカネ「ねぇ? スクロールロックキーでウィルスを駆除できる、敬川さん?」 アカネ「このキーボードは、あなたの会社、京鉄ITソリューションから購入したものです」 アカネ「ねぇ? サプライチェーン攻撃、敬川さん?」 敬川「仕入れ先に聞けよ! 俺じゃねぇ」 アカネ「そうでしょうか。英賀保の件を聞く限り、あなたは最初からすべてを知っていたとしか思えない」 敬川「ああ、キーボードの不具合はな」 アカネ「それなら、運行管理システムがダウンしたとき、なぜあなたはその可能性を指摘しなかったのでしょうか。いえ、むしろ、なぜ、もっと前にキーボードの交換を提案しなかったのでしょうか」 アカネ「ねえ。ニンジャ崩れの敬川さん?」 敬川「だが、スクロールロックは勝手にONにはならない」 アカネ「確かに。その点は私も不思議に思いました。誰かがONにしなければならない」 敬川「広報部のアルティメットバグトリガーだろうが」 アカネ「確かに、少なくとも、広報課で起きた事例はそうでしょう」 アカネ「しかし、敬川さん。あなたが持っていた、このUSBメモリ」 アカネ「これを刺すと不思議なことが起きるのです」 アカネ「USBメモリなのにまるでキーボードのように振る舞い、勝手にスクロールロックキーが入力され、スクロールロックがONになる」 アカネ「それだけではありません。『ファイル名を指定して実行』が開き、powershellとpsexecを組み合わせて、ネットワーク内のすべてのコンピューターのスクロールロックがONになるようになっていました」 アカネ「しかも、数分おきに実行される親切設計」 敬川「は、ははは、随分手の込んだ手法だな――」 敬川「しかし、俺は不審なものが刺さっていたから撤去した、それだけだ」 アカネ「ほう。この期に及んで。ですが――」 アカネ「あなたがこのUSBメモリを差し込むところを撮影していたのです。この御方が」 パキラ「ブーン」 敬川「!?!?」 アカネ「しかも、テレビカメラも別角度から貴方をとらえていた」 夢前「それに、psexecはちゃんとログに痕跡が残るんだよ? 敬川君」 アカネ「そう。もう逃れられません」 アカネ「犯人は、敬川康さん、あなたです」 アカネ「Q.E.D」 アカネ「とりあえず、めんどいんで警察には通報しました。わたし、あと5分で定時なんで、とっとと白状してくださいな」 ここのアカネは、『ゆとりのムカツク態度』のステレオタイプな演出で。 椅子でぐるぐる回りながら言うみたいな感じでも良い。(でも作画がたいへんそう) このアカネの態度に敬川はカチンとくる。 敬川「……ああ、そういう態度がムカつくんだよ! 何が親会社だ! 全員クソだ! これだけ尽くしてやってるのに、どいつもこいつも」 敬川「だからやったんだ」 夢前「敬川君、気持ちは分かるけど……」 アカネ「まぁ実際クソですが……何をいまさら」 敬川「……てめえらのクソ案件のせいで、俺らは降格になったんだよ! ま、こんなこともあろうかと、3年前から地道に仕込んでおいたんだ」 そこへ階段を駆け上がってきた葛城が、敬川に大声で怒鳴る。 葛城「なんやと!? どんだけ被害が出たか分かっとんか?」 敬川、嘲笑する。 敬川「自業自得でしょ。あんたの言動が原因で、みんなが隠蔽するようになった。だから対応が遅れた」 敬川「おめでとう、あんたもハッカーの共犯だ! ははっ、見せてくれよ、鉄道員の自覚とやらをさ!」 葛城「んがああああああああああああhjfkdljhldfjぽsじょp@あえ@pgzsdsdghれ」 葛城怒り狂う。ビル外観を見せても良いかもしれない。3カメで撮るか。できれば廊下で雑談している人も見せたい。 10秒ぐらい経って、敬川、アカネたちの背後を指差す。 敬川「あ、UFO」 敬川以外の全員(葛城含む)、真顔で振り返る。(ここでカメラ目線になる) そこには確かに金管楽器がある。ただし、ユーフォニアムではなく、チューバ。 アカネ「あ、ホントだ」 夢前「ユーフォニアム?!」 アカネ、演奏する。 (BGM)マンボのような軽快なリズムの曲(チューバソロ。割と上手い演奏で) アカネ、演奏をやめ、 アカネ「チューバや! 重い思たわ」 敬川、その隙に南京錠をピッキングしていた。 (SE)ガチャ 敬川、逃げ出す。 アカネ「しまった! ノリツッコミの脆弱性が」 敬川を追って、アカネ、カメラマン、御来屋が階段を駆け下りる。 @大将軍駅ホーム 敬川は、途中で従業員用の裏口から大将軍駅ホームに飛び出し、旅客に紛れて逃げる。 アカネ、追いかけるものの、ここまでカットが切り替わる度に目に見えてフラフラになっている。 @建物入り口 アカネはもう走れない。 アカネ「ぜえ……ぜえ……」 そこへ車に乗った敬川がやってくる。 車の窓を開けて手を振る敬川。 敬川「アディオース、バ~イび~」 そして敬川の車は走り去る。 追いかけようとするとするが、アカネはもう動けない。 アカネ「……はぁ……もうだめ」 (SE)パトカーのサイレン(ウー) (SE)キキキキー 京姫鉄道の緊急自動車がアカネの前にドリフト停車。 芽依「アカネちゃーーーーん!」 芽依「乗って!」 アカネ「え?」 芽依「良いから」 @緊急自動車車内 (SE)パトカーのサイレン(ウー) 芽依「緊急自動車通ります!」 (SE)キキキキー マニュアルシフト。 ドリフト運転で左右に揺さぶられるアカネ。 同様にちゃっかり乗っているカメラマンと御来屋御来屋が後部座席で左右に揺さぶられている。 アカネ「これは……どういう」 芽依「私なりにできることを考えたんだ!」 芽依「人脈だよ」 @交差点 芽依「緊急自動車左折します」 赤信号を通過する。 (SE)ぶおおおん ※この赤信号は、田寺一丁目交差点の古い信号機 バックミラーに赤色灯が入ってきて、焦る敬川。 @緊急自動車車内 アカネ、吐きそうな顔。 アカネ「同じところを回っているような」 芽依「動揺してるんだ。追い込むよ!」 姫路駅前一般車両通行止めを突破する。 (注:2017年4月1日から、姫路駅前の通りは一般車両通行止めになっている) 芽依、無線で連絡をする。 ただし作画の手間を考え、咽喉マイクを使う。 芽依「京鉄バスさんお願いします」 @京鉄バス車内 テロップ『京姫バス合同会社 運輸部運転課 運転士 向洋武雄』 向洋「よっしゃまかしとき!」 @姫路駅前 バスがとろい運転で敬川の進路を妨害する。 敬川、國鉄姫路駅にドリフトで停車。アカネもそれに続く。 テロップ『日本國有鉄道 姫路駅』 車を捨てて走り出す敬川。 アカネも追いかけるが、もはや体力の限界。 アカネ「ぜえぜえ、私、運動、苦手」 芽依、ふらふらのアカネをパトカー車内から見ている。 芽依、意を決してパトカーの拡声器でアカネに呼びかける。 芽依「アカネちゃん」 芽依(拡声器)「苦手なことは、得意な人に頼めばいいんだよ!」 アカネ「!」 芽依、頷く。 アカネ、電話を取り出す。 @姫路駅新幹線コンコース行き階段 敬川、新幹線に乗ろうと階段に駆け寄るが、その手前で京鉄乗務員労働組合が横断幕を広げ妨害。 テロップ『京姫鉄道乗務員労働組合』 テロップ『同・書記長 向山』 向山車掌「ムキ★」 もちろん向山達は、別会社(公社)の敷地内で無許可で労組活動を行い、それによって客の通行を妨害しているため、國鉄の駅員に取り押さえられる。 向山車掌(ムキムキ車掌)、國鉄職員に取り押さえられながら電話片手にウィンク。 @キハ20車内 結菜、電話片手。 結菜「まかせてアカネちゃん」 (SE)ATSチャイム(キンコンキンコン……) @京鉄姫路駅ホーム テロップ『京姫鉄道株式会社 姫路駅 2番線ホーム』 結菜、京鉄姫路駅にキハ20で滑り込む。 運転室から飛び出す結菜。 (SE)足音(タタタタタ) 國鉄への連絡改札をダッシュで通り抜けようとする。 @京鉄・國鉄連絡改札 テロップ『日本國有鉄道 姫路駅 京姫鉄道連絡改札口』 國鉄駅員「あ、ちょっと!」 結菜、サッと当日のハンコが押された青春18きっぷ(常備券タイプ)と京鉄社員証を見せる。 テロップ『青春18きっぷ(常備券)』 國鉄駅員「あ」 結菜、無事改札を通過。 @國鉄姫路駅5番線ホーム テロップ『日本國有鉄道 姫路駅 5番線ホーム』 追ってくる結菜に気付いた敬川、駅そばを食べようとしてる客をはね飛ばす。 テロップ『同・えきdeそば食堂』 えきそば客「きゃっ」 結菜「おわっ」 結菜、アクロバティックにえきそばを無事キャッチ。線画のみでスローモーション。 結菜「ふー、危なかった」 (SE)車掌の笛(ピーピッ) 結菜「あ」 (SE)ドアが閉まる音。 結菜「しまった!」 テロップ 『新快速(大垣から普通) 電第144M列車 東京行 日本國有鉄道223系電車』 (※ステンレス車ではなく鋼鉄車で、現実の223系とは異なる。塗装は湘南色) 発車する新快速列車。 敬川、車内から手を振っている。 @國鉄223系車内 敬川「アディオス!」 敬川、車内から結菜に手を振る。 結菜の声は聞こえないが、『くそー!』と叫んでいる。 敬川「ふっひっひっ……ふう」 (SE)ホルスターから銃を抜く音 敬川、横から銃を突きつけられる。 敬川が恐る恐る目をやった先には、篠山と2名の計3名の鉄道公安が銃を構えている。 篠山は片手撃ちの構え、後ろの2名は両手撃ちの構え。 篠山「鉄道公安です。」 篠山「電子計算機損壊等業務妨害容疑で現行犯逮捕しちゃうぞ★」 手錠を掛ける。 篠山「17時15分、逮捕!」 篠山「これ言ってみたかったんだよね! アカネ聞いた-?!」 @國鉄姫路駅ホーム アカネは電話越しで篠山の声を聞いてる。 アカネ「(引きつり笑いで)へっ」 篠山(電話)「ってか全身タイツって分かりやすすぎwwww リアルで初めて見たしwwwwwまじでツボwwwww」 アカネ「まぁ、何はともあれ、一件落着、ですね」 ■S12 @謝罪会見会場 ※この場面はテレビ番組風のテロップ&演出 司会は芽依。 社長とCIOが中央に座っている。 CIO「『セキュリティ事案をゼロに』という理想に拘るあまり、万が一の際の対応体制が疎かになっていたことは否定できません」 CIO「早急にセキュリティ対応体制および教育体制を見直すとともに、部門を越えたセキュリティ対策専任チームを設置いたします」 社長、CIO、起立する。 社長「このたびはお客様ならびに関係者のみなさまにご迷惑、ご心配をおかけいたしましたことを、深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」 社長、CIO、頭を下げる。(5秒間) フラッシュを浴びる 御来屋(ナレ)「この事件に関して、セキュリティの専門家は――」 テロップ「Q. 事件の評価は」 朝霧「事実と調査結果を迅速に公表したことは評価に値します」 テロップ「Q. 今後求められる対策は」 朝霧「セキュリティ製品の導入だけで安心していてはダメなんですね」 朝霧「経営者・従業員も、一人一人が当事者意識を持つことです。内外問わず、攻撃を受ける前提での事案対処体制の確立、継続的な見直し」 朝霧「これをですね、組織文化に合った形で行っていく必要があると思います」 朝霧「そして、電話のガチャ切りは!(強制終了)」 御来屋「ますます増えると見込まれる、重要インフラに対するサイバー攻撃」 御来屋「京姫鉄道の今後の取り組みに、注目が集まっています」 ■S13 CSIRT勉強会 @給湯室 人事異動の通知が張り出されている前で、宏佳と万能倉が話している。 中舟生 良文:  取締役CIO 兼 広報部長 → 取締役CISO 兼 広報部長 葛城 岩男:  取締役 総務部長  → 京姫ひよこファーム合同会社転属 (専務取締役) 余部 静夫:  広報部広報課 課長 → 京姫ひよこファーム合同会社出向 (部長) 英賀保 芽依:  広報部広報課 係員 → 広報部システム課 係員 祝園 アカネ:  広報部広報課 上級係員 → 広報部システム課 主任 万能倉「葛城のオッサンは島流しか。当然の結果だな」 ※幸せそうにひよこと戯れる葛城と余部のイメージ 宏佳「とはいえ、彼一人の問題ではない。当事者意識という意味では」 万能倉「まあな。鉄道も情報も安全対策に共通点が多いなんて、思いもしなかったからな」 万能倉「そうだ、何か考えてるんだろ?」 宏佳「ええ。元々システム課は予算の都合で広報部の傘下にあっただけなんだけど、もっと『広報部』としての立場を活用していこうってね」 @廊下 『情報セキュリティ事案ゼロは当たり前!』という張り紙が剥がされ、『感染した?と思ったらすぐ相談! 内線XXX-XXXX』という張り紙が貼られる。 作業をしているのはアカネと芽依。 芽依「しーさーと?」 アカネ「はい。部門を越えてセキュリティ事案に対応するチームです」 芽依「ああ、記者会見で言ってた」 アカネ「まだまだこれからですけどね。連絡・報告が集まるよう、信頼を得ていかないと」 アカネ「そういえば、今回、解決の糸口になったのは英賀保さんの連絡でした。まあ……そういう意味では、英賀保さん、いつもありがとうございます」 芽依「ああああ♥」 そこへ、社長がやってくる。 車折社長「いいねぇ! 頑張ってるね~」 車折社長「そこで、今回、我が社でホワイトハッカーを雇うことにした」 アカネ「はい!?」 ホワイトハッカー(敬川)「……こぽぉ……」 全身白タイツの男が社長の背後から出てくる。首は常時傾いていて、漂白済み(意味深)という感じを出す。 アカネ「はは……」 アカネ(モノ)「道のりは長そうです……」